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エリア特集2013-09-07

陸前高田の中学生が独アディダス&ブンデスリーガ現地訪問/被災地に立つ陸前高田市・久保田崇副市長が同行リポート

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スポーツ用品メーカー、アディダスジャパン(東京都港区)の招待により、陸前高田市の中学校に通う14人のサッカー少年が今年8月、ドイツのアディダス本社を訪れた。現地ブンデスリーガの観戦、第一線に立つ一流プレーヤーとの交流の様子を、同行した同市副市長の久保田崇さんがリポートする。

きっかけは戸羽市長のアディダスジャパンでの講演

 8月3日から13日までの11日間、アディダスジャパンの招待により、陸前高田市立第一中学校サッカー部の生徒14人、コーチの松本正弘さん、陸前高田市の副市長である私、久保田崇の16人は、アディダス本社があるドイツのバイエルン州郊外にあるヘルツォーゲンアウラッハとミュンヘンを訪問した。

FCバイエルンミュンヘンのスター選手たちと記念撮影

 この訪問は陸前高田市の戸羽太市長がアディダスジャパンの社員向けに講演したことがきっかけとなり、これまで陸前高田市内においてスポーツ指導者の講習会や、小中学生を対象としたスポーツ教室などを行ってきた同社が本社のあるドイツへ招待したもの。

 ドイツでは、アディダス本社見学のほか、FCニュルンベルグに所属する日本代表ミッドフィルダー(以下、MF)清武弘嗣選手との懇談やブンデスリーガ開幕戦である「バイエルン対ボルシアMG」の観戦、現地でのサッカー練習や親善試合などを行った。

地元ロータリークラブにて陸前高田の状況報告>

 ドイツ訪問の初日は、現地ロータリークラブで陸前高田市の現状報告や支援への感謝を表するスピーチを行った。スピーチは英語で、生徒らも事前に練習した成果を発揮してくれた。その中から市立高田第一中学校の代表者6人による共同スピーチの内容をリポートする。

地元紙でもロータリークラブで報告する様子が掲載された

 「英語は得意ではないのですが、頑張ります。僕たちは、日本の岩手県の陸前高田市から来た中学生です。僕たちはサッカー部に所属しています。

 僕たちは2年前の津波で大きな被害を受けました。僕たちの仲間の何人かは家を流されました。僕たちの仲間の何人かは家族を流されました。僕たちは大好きなサッカーを練習する場所がありませんでした。僕たちは世界中の多くの人々の援助を受けました。僕たちは、うれしく、そしてたくさん感謝しています。

 僕たちにはまだつらいことがいっぱいあります。学校のグラウンドには仮設住宅が立ち並んでいます。仮設グラウンドには照明がありません。僕たちがグラウンドを使える時間は限られています。

 僕たちは学習成績が良くありません。そして、顔が面白いです。僕たちは女の子にもてません。僕たちは、世界中の多くの子供と同じく勉強が嫌いです。しかし、友達や先生、そして学校が好きです。僕たちは大好きなサッカーでベストを尽くし頑張っています。

 僕たちは香川選手、清武選手、内田選手が好きです。僕たちは、ドイツのサッカーをたくさん学びたいです。僕たちはプロサッカー選手になりたいです。それが僕たちの夢です。

 本日は僕たちをご招待してくれて感謝しています。このような機会をいただきありがとうございました」

 スピーチは緊張しながらも、会場からも時折笑いと涙を誘うなど、なかなかの出来栄えだった。ロータリークラブでは6,000ユーロ(約78万円)の寄付が集まり、この寄付金は陸前高田市のスポーツ環境整備に活用される予定だ。

FCニュルンベルグの日本代表MF清武弘嗣選手と懇談

気さくにサインに応じる清武選手

 滞在中、FCニュルンベルグに所属する日本代表MF清武弘嗣選手と懇談する機会が設けられた。生徒一人一人が清武選手に直接質問をぶつけながら交流の時間が持てたほか、それぞれにサイン色紙と記念撮影に応じてもらえたりするなど、生徒たちにはとてもぜいたくな時間となった。

 印象的だったのは、ある生徒の「中学生のときはどんなことを考えていたんですか?」という問いに対する清武選手の答え。

 「中学の時は、膝の成長痛(オスグット病)がひどくてサッカーどころではなかった。身長も当時は142センチぐらいしかなくて、実はいい思い出がないんだよ」

 中学生時代からのスター選手だと想像していたところに、こういう話を聞いて勇気が湧いた生徒も多かったはず。生徒たちへのファンサービスのため、気さくに応じてくださった清武選手に感謝したい。

ブンデスリーガ開幕戦(バイエルン対ボルシアMG)の観戦

開幕戦を観戦する子どもたち

 ヘルツォーゲンアウラッハから移動してミュンヘンのアリアンツ・アレーナを訪れ、ブンデスリーガ開幕戦である「バイエルン対ボルシアMG」の一戦を観戦した。ユニホーム同様、真っ赤に燃えるアリーナは満員御礼の7万1000人の大観衆。試合はホームのバイエルンのアリエン・ロッベン選手が開始早々からゴールを奪い、以降も危なげない試合運びで3-1と快勝。生徒たちにとっては、欧州チャンピオンである選手たちのプレーを間近で見る、まさに貴重な機会となった。

 試合翌日には、オランダ代表MFアリエン・ロッベン選手やドイツ代表DFフィリップ・ラーム選手、オーストリア代表MFダビド・アラバ選手が登場し、生徒たちと触れ合うひとときも。

 「どうすればサッカーがうまくなりますか?」との問いに、「真面目に練習することも大事だけど、まずはサッカーを楽しむことだね。サッカーを楽しんで続けていれば才能が開花するはずさ」とロッベン選手。「将来、君たちのプレーをテレビで見られることを楽しみにしているよ」とのエールももらい、まさに生徒たちにとっては宝の言葉となったと思われる。

今回のドイツ訪問プログラムの背景

 今回のアディダスジャパン社による招待には_2つの背景事情がある。

 一つ目は、被災地の子どもたちのスポーツ環境が大変厳しい状況にさらされていること。今回招待された市立高田第一中学校もそうだが、学校のグラウンドは仮設住宅で埋め尽くされており、部活動や体育などスポーツ活動をする場が失われている。実際には、校舎から離れた場所に土地を見つけて、草取りや防球ネットを整備して仮設のグラウンドとしているが、移動に時間がかかることや面積が狭く他の部活動と交代で使わなければならないなど、とても不便で、かつその状態が今後数年間続くと見込まれていることだ。

 二つ目は、同市の戸羽太市長がアディダスジャパンの社員向けに講演を行ったことが今回のきっかけとなったこと。その講演内容に感動した社員がこの企画を考案したとうかがっている。東日本大震災の記憶の風化が叫ばれて久しいことから、被災地からの情報発信は重要。一方で、被災地の首長などが地元を留守にして市外・県外に講演に出掛けることについては、地元の業務を優先すべきとの批判もある。もちろん、多忙を理由に講演依頼を断るのも簡単だ。しかしながら、今回のケースのように、市民に具体的な利益が生じうることを考慮すれば、被災地の状況を外部に伝えることができる機会はできる限り大切にすべきではないか――あらためてそう思った。

親善試合の休憩中の一コマ

写真・文/久保田崇(陸前高田市副市長)

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