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エリア特集2013-10-16

「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」を目指す陸前高田市、そのビジョンを国連関係行事で発表/被災地に立つ陸前高田市・久保田崇副市長のリポート第2弾

今回訪れたのは米国ニューヨーク。9月に国連ハイレベル会合に出席し、関連行事で被災地の現状や課題、そして「障がいがのある人もない人も暮らしやすい街」を目指す陸前高田市の復興ビジョンについてスピーチした時の様子をリポートする。

国連総会ハイレベル会合に出席、スティービー・ワンダーさんも登壇

ニューヨークの国連本部

 ニューヨーク(以下、NY)に到着した翌日(9月23日)、国連総会「障害と開発に関するハイレベル会合」に出席した。世界の指導者が集うこのハイレベル会合は、「障がいを持つ人が生産的な雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、そして基本的な社会サービスにアクセスしやすい社会づくり」について討議が行われた。

 会議には政府関係者のほか、さまざまな障がい者団体から800人を超える代表が参加し、「国連ピース・メッセンジャー」を務める歌手スティービー・ワンダーさんも、オープニングで演説を行った。会議は最大7カ国語で同時通訳されるほか、聴覚障がい者向けに演説内容の文字が即座にスクリーンに映し出されるなど、さまざまな面に配慮されていたのが印象的だった。

障がい者の震災死亡率は2倍-求められる障がい者への防災政策

 今回のNY訪問のハイライトは、ニューヨーク市立大学ハンター校で行われた「災害と障害者~日本からの教訓~」をテーマとしたフォーラム。その中で、被災地からの活動報告をさせていただいた。私は、同行したまちづくり戦略室主査の佐々木敦美さんとともに、被災者の暮らしや福祉施設の現状、復興の様子などについて写真や資料を用意した。

国連で防災を担当するマルガレータ・ワルストロムさん

 このフォーラムでは、スウェーデン人女性で国連事務総長特別代表(防災担当)のマルガレータ・ワルストロムさんをはじめ、海外の来賓からのスピーチ、日本財団常務理事の大野修一さん、外務省(現・総合外交政策局審議官)の新美潤さんなどのあいさつに続き、日本障害フォーラム(以下JDF)幹事会議長の藤井克徳さんの基調講演が行われた。

 藤井さんは陸前高田市が目指す「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」というビジョンについて高い評価を頂いており、今回の「被災地からの報告」を提案してくれた人である。自身も視覚障がい者で、共同作業所の設立に関わった経験などから、国内外に広く障がい者施策を訴えている。

 NHKが被災三県(岩手、宮城、福島)沿岸部の27市町村から聞き取り調査を行ったところによると、東日本大震災における障がい者(障害者手帳所持者)の死亡率は、住民全体の死亡率の約2倍だったと報告されている。藤井さんはこの点に触れ、既存の防災政策が障がい者への配慮を欠いていたのではないかと指摘した。

久保田さんのスピーチの様子。写真を使って被災直後の状況を報告

 死亡率に関してだが、震災による死亡率は市内全人口に対して7.2%(2万4246人中1750人)、障がい者に限ると9.1%(1368人中124人)。その割合は1.2倍で、陸前高田市については言及されている2倍ほどの差は見られない。これは障がい者の入所施設等がもともと高台にあった結果ともいえるが、実際には防災政策に基づいて立地されたとは必ずしも言えない。

フォーラムで被災地の状況を報告

 藤井さんの講演に続いて上映されたのが、JDFが製作したドキュメンタリー映画「生命のことづけ-死亡率2倍 障害のある人たちの3.11」。障がいを持ちつつ何とか生き延びた方々のリアルな肉声を収録した作品だ。

日本障害フォーラム幹事会議長の藤井克徳さん

 この映画上映に続き、私が被災地からの活動報告を行った。スピーチの際に注意を払ったのは、被災地の現況をわかりやすく伝えるということ。2年半前の東日本大震災は、国内でも記憶の風化が進んでいるのだから、海外ではなおさらである。そのため、プレゼンテーションには多くの写真を用いた。海外からの東北への支援に対する感謝の気持ちを伝えてから、震災翌日の被災写真、避難所、仮設住宅の暮らしなどを紹介。特に、旧陸前高田駅前の津波が来た前と後を比較した写真、市街地が消滅した状況を写したカットには驚きを隠しきれなかった様子だった。

 さらに、復興工事がようやく始まった街中の様子、再建されたグループホームなどの福祉施設に続き、戸羽市長が目指す「ノーマライゼーションという言葉のいらない街」のビジョンや、これを実現するため庁内の若手職員有志で活動している勉強会の様子なども併せて紹介した。「2020年の東京オリンピックが開催される頃には、障がいのある方もない方も共に生きる共生社会(インクルーシブ・ソサエティー)を実現して世界の方々にお見せしたい」とメッセージを込めてスピーチを終えた。

ノーマライゼーションという言葉のいらない街、その具体策とは?

 会場から、米合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の職員と思われる方から「ノーマライゼーションという言葉の要らない街を目指して庁内の勉強会や研修、車いす体験などの取り組みを始めたことは評価するが、そのビジョンを実現する具体策として何があるのか?」と質問の手が挙がった。当然とも言える質問に対して、「まだまだ復興はこれからという段階だから、現時点でそのビジョンを実現できていることは何もない。しかし、これからの話として次の3点を重視する」と答えた。

  1. 今後、建設する学校、図書館や新しい市街地の商店街など、さまざまな施設に段差やきつい坂道などを可能な限りなくしてバリアフリーを標準化する。
  2. 緊急時の避難所のうち幾つかの場所で車いす対応やオストメイトに対応できる消耗品・備品等の常備、専門スタッフが駆け付ける体制とするなどの「福祉対応避難所」の設置を検討する。
  3. 研修や話し合いの場などを通じて障がい当事者と共に復興についても考えていく。

 バリアフリーで最も重要なのは段差解消などのハード面ではなく、人々の意識も含めたソフト面だ。もし、街中に出ても誰もが笑顔で障がい者の移動やコミュニケーションに手を貸すならば、障がい当事者は喜んで街中に出掛けていくだろう。その意味では、人々の「考え方」がバリアフリーにならなければならない。

 陸前高田市だけではないが、一部の障がい者は健常者の生活の場から離れて生活していたのも事実。しかし、これからはスポーツの場や生活の場でも、不自由を抱える人たちが普段から溶け合うように社会を形成し、お互いを理解しながら生きていくことが重要だ。これが普段からできていれば、震災のような非常時でもうまく機能するだろう。

 多くの市民が犠牲となり、口にできないような不自由まで経験した陸前高田市だからこそ、障がいのある人もない人も、そしてそれ以外の不自由さを抱える人も含め、誰もが住みやすいまちづくりを目指さなければならない。

海外で加速する「東日本大震災の記憶」の風化

 フォーラムでは、津波の爪痕や被災者の現状、復興の様子などを写真で紹介すると、会場のあちこちからため息が聞こえた。仮設住宅の写真を見て、「今の住まいがこれか?」とつぶやく参加者もいた。海外から見れば技術力のある、先進国の日本をもってしても復興がなかなか進まないことが不思議なのだろう。

 やはり海外では、東日本大震災はもはや完全に風化しているのだと実感した。今回の参加者は各国政府機関など影響力のある方々だから、集まった人数以上に意義は大きいと考えられる。陸前高田市では市の公式フェイスブックページでも英語で情報発信を行っているが、これからも国内外に向けて復興状況を発信していかなければという思いを強くした。

 なお陸前高田市において、10月29日には障害者と防災シンポジウム「誰もが住みやすい まちづくりに向けて」(主催=国連国際防災戦略事務局(UNISDR)駐日事務所、日本財団、日本障害フォーラム(JDF)が開催される。

 このシンポジウムでは、今回のフォーラムでもスピーチされたマルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表やJDFの藤井幹事会議長も参加予定で、地元の障がい当事者や一般市民の参加も得て東日本大震災の経験と教訓を陸前高田から発信する予定だ。

 私たちが目指すのは、被災した施設や設備などのインフラをただ単に復旧させることではなく、震災前よりも障がいのある人もない人も、誰もが住みやすいまち。まちづくりを含め、防災文化を発信することが、大震災の風化を防ぐことにもつながるのではないだろうか。

精神障がい者が自由に情報を得たり勉強できる米国のクラブハウス。明るい雰囲気で非常に設備が充実していたのが印象的だ

※国連ピース・メッセンジャー=国連の活動をアピールする「平和大使」。日本人ではバイオリニストの五嶋みどりさんが選ばれている

写真・文/久保田崇(陸前高田市副市長)

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