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エリア特集2012-05-07

「できるところから一つずつ」-加藤久さんが結ぶ被災地と全国のサッカーファミリー

 「練習場所を失った三陸の子どもたちに、再びサッカーが楽しめる環境を」-全国から寄せられた募金が、一つの「場」を作り出した。4月末、日本サッカー協会(以下、JFA)が運営する「サッカーファミリー復興支援金」から、宮古市に寄贈されたのは、防球ネットとフットサル用のゴール。被災地と世界、それぞれのサッカーファミリーを結びつけたのは、元日本代表キャプテン加藤久さんだった。

「できるところからやっていくしかない」

 昨年の震災で三陸沿岸の各地では、子どもたちがのびのびとサッカーボールを蹴られる場所が激減した。 近隣の校庭やグラウンドを間借りできる日はまだよく、それ以外の日は自分たちで狭い空き地を見つけては、ボールを蹴っていた。アスファルトの上で練習して骨折した子もいたという。

 これに強い問題意識を感じ、いち早く行動に出たのが元サッカー日本代表キャプテンの加藤久さん。実は加藤さんは東北人。宮城県利府町の出身で、この地域が「三陸沿岸」とひとくくりにできないほど南北に広く、傾斜地が多い地域であることを知っていた。

 現在はJFA復興支援特任コーチも務める加藤さんは震災直後から、岩手、宮城の沿岸を単独で回り、サッカー環境の被災状況を調査。現地のサッカー協会とコンタクトを取り、何度も各地を訪れて分かったことは、やはり「プレーする場」が壊滅的に失われていることだった。わずかなスペースを工夫して練習する子どもたちの姿に、加藤さんはこの時「三陸沿岸全域で、施設などのハード面の回復と、指導者の育成などソフト面での充実を目指し継続的に活動していく必要がある」と感じていた。早い段階から「被災地域が広く、全て平等に支援活動を行うことは難しい。できるところから一つずつやっていくしかない」とも。

「サッカーファミリー復興支援金」設立

 一方、加藤さんを復興支援特任コーチとして任じたJFAは、震災直後から全国各地でチャリティーマッチを開催するなどして、その収益金を全額日本赤十字社に寄付してきた。さらに昨年4月、短期的な救援活動だけでなく、誰もがいつでもサッカーを楽しむことのできる環境の復興を目指し、「サッカーファミリー復興支援金」を設立。サッカー用品などの物資提供や練習環境の整備、被災地の子どもたちに笑顔と希望を与えるサッカー教室などの開催を目的とし、広く募金を呼び掛けている。昨年から継続して行われているチャリティーオークションでは「なでしこジャパン」メンバーからも、サイン入りユニホームなどが出品されているほか、チャリティーマッチの収益金が全額寄付されている。


写真一番右が加藤さん

「防球ネットさえあれば、ここで8人制の試合ができる」

 広い敷地内に約400戸の仮設住宅が立ち並ぶ県内最大級の仮説団地「グリーンピア三陸みやこ」(田老向新田)。もともと、レジャー施設のため人工芝の多目的屋内アリーナがあり、ゲートボールやテニスの練習場として利用されていた。昨年11月からは、田老地区の少年チームもここで練習を開始したが、ガラス張りの施設のため、公式ボールは使用不可。フットサル用の弾まないボールを代用していた。

 昨年、調査でここを訪れた加藤さんは「窓を保護する防球ネットさえ張れば、8人制の小学生サッカーの試合ができる」と考え、その後実現するために奔走を始めた。

 今年1月、静岡で行われたJFAのチャリティーパーティーに参加。この会では、現役プロ選手やOBたちが多数参加してのオークションが開催され、多くの収益金を得ていた。これを「明確な形として被災地へ贈りたい」と考えていた主催者。加藤さんから同施設の状況を伝えられた彼らは、収益金を「サッカーファミリー復興支援基金」に全額寄付。防球ネットの設置費用に充てられることを望み、JFAもこれを承認。同施設に待ち望んだネットが寄贈されることとなった。


設置された防球ネット

「世界のサッカーファミリーからの贈り物」

 田老地区の桜が八分咲きとなったGW初日、施設には沿岸全域から集結した小学生の元気な声が屋外まで響いていた。2日間の日程で行われた「グリーンピア三陸みやこアリーナ 防球ネット完成記念フットサル大会」には、北は久慈から南は陸前高田までの計16チーム、300人以上が参加。白熱した真剣勝負が繰り広げられた。最終日にはJFA小倉純二会長らも訪れ、子どもたちの元気なプレーを観戦。小倉会長は「このネットは、世界のサッカーファミリーから君たちへの贈り物。この中から将来の日本を代表する選手が出てくれたらうれしい」と語った。子どもたちは、関わった多くの人々に対し、全員が声をそろえて「ありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えた。


プレーを思う存分楽しむ子ども達

 震災以前から、冬期間の練習場所に乏しかった沿岸地域。屋内の充実した練習場の誕生は、今後のサッカー選手育成の観点からも大きな意味を持つ。サッカーを愛する多くの人々の心と、苦しい経験をした被災地の子どもたちが同じ一つの夢に向かう第一歩となった。

 試合の合間、子どもたちから「キューちゃん」と声が掛かり、これまでに触れあった子と再会した加藤さんは「おい、また大きくなったんじゃないか?」と目を細めた。「何よりも子どもたちの笑い声のために、これからも活動していく」

 マイナスからゼロに戻すことが「復旧」なら、もともとあったマイナスも拾い上げつつ、無限大へ広げていくことが本来の「復興」と言える。物資提供や、単発のイベントだけに終わらない加藤さんやJFAの活動は、今後も復興を目指し「できるところから一つずつ」続けられていく。

日本サッカー協会

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